人手不足が深刻化する日本において、特定技能は即戦力となる外国人を確保するための重要な手段です。しかし、受け入れ企業が満たすべき要件や、手続きの複雑さに戸惑う企業様も多いでしょう。本コラムでは、特定技能外国人の受け入れを検討している企業様向けに、特定技能の要件、申請手順、そして行政書士が提供できる支援についてわかりやすく解説します。
特定技能の「受け入れ企業」になるための要件チェックリスト
受け入れ機関(特定技能所属機関)が満たすべき主な要件は、「雇用契約の適切性」と「企業自体の適格性」の2点に大別されます。
A. 雇用契約に関する要件(外国人材との契約内容)
項目 | 求められる内容 |
報酬の同等性 | 報酬額(基本給、手当、賞与、退職金などすべて)が、同等の業務に従事する日本人と同等以上であること。 |
差別的取扱いの禁止 | 外国人であることを理由に、報酬や待遇(教育訓練、福利厚生)について差別的な取り扱いをしないこと。 |
所定労働時間 | 日本人正社員と同様の所定労働時間であること。 |
一時帰国 | 外国人が一時帰国を希望した場合、必要な有給休暇を取得させること。 |
帰国旅費の負担 | 外国人が帰国旅費を負担できない場合、受け入れ機関が負担すること。 |
保証金・違約金の禁止 | 外国人やその親族から保証金を徴収する、または不当な違約金を定める契約を締結しないこと。 |
B. 企業(受け入れ機関)の適格性に関する要件
項目 | 求められる内容 |
法令遵守 | 労働、社会保険、税金に関する法令をすべて遵守していること。 |
欠格事由 | 過去5年以内に、出入国・労働法令等に関する違反(罰金刑以上)がないこと。 |
非自発的離職 | 1年以内に、特定技能外国人と同種の業務に従事する日本人を、会社都合で非自発的に離職させていないこと。 |
行方不明者の未発生 | 1年以内に、受け入れ機関の責任で外国人(技能実習生等を含む)の行方不明者を発生させていないこと。 |
支援体制 | 外国人材が理解できる言語で支援できる体制を整備していること(自社で支援を行う場合)。 |
2. 企業が負う「義務的支援」の具体的な内容(10項目)
受け入れ機関は、特定技能外国人が日本で安定した生活を送れるよう、以下の10項目について支援計画を立て、実施する義務があります。この支援は、自社で実施するか、登録支援機関に委託することができます。
支援項目 | 具体的な実施内容の例 |
1. 事前ガイダンス | 雇用契約締結後、入国前に、労働条件、活動内容、費用負担、保証金徴収の有無などについて対面またはテレビ電話で説明する。 |
2. 出入国時の送迎 | 入国時:空港等から事業所または住居まで送迎する。帰国時:空港の保安検査場まで送迎・同行する。 |
3. 住居確保・契約支援 | 社宅を提供する、または賃貸物件探しの手伝い(連帯保証人サポート、不動産業者の紹介など)、銀行口座・携帯電話・ライフライン(電気・ガス等)の契約手続きを補助する。 |
4. 生活オリエンテーション | 日本の交通ルール、生活マナー、公共機関の利用方法、ゴミの分別、医療機関の利用方法、防災・災害時の対応などを説明する。 |
5. 公的手続等への同行 | 必要に応じて、住居地(住民登録)、社会保障、税金などの手続きについて役所への同行や書類作成の補助を行う。 |
6. 日本語学習機会の提供 | 日本語教室やボランティア団体が開催する日本語講座の情報提供、日本語学習教材の情報提供等を行う。 |
7. 相談・苦情への対応 | 外国人が理解できる言語で、職場や生活上の相談・苦情に即座に対応し、必要な助言・指導を行うための窓口を設置する。 |
8. 日本人との交流促進 | 自治会活動、地域のイベント、お祭り、レクリエーションなど、地域住民や日本人従業員との交流を促進する場や機会の情報提供、参加支援を行う。 |
9. 転職支援(企業都合の場合) | 受け入れ側の都合により雇用契約を解除する場合、転職先を探す手伝い、推薦状の作成、求職活動のための有給休暇の付与、必要な行政手続きの情報提供を行う。 |
10. 定期的な面談・通報 | 外国人本人およびその上司と、それぞれ3ヶ月に1回以上、対面で面談を実施し、労働状況や生活状況を確認する。法令違反や支援の不備が発覚した場合は、行政機関へ通報する。 |
特定技能の受け入れは、これらの要件と義務的支援を継続して履行する体制があることを入管に証明する必要があります。手続きは煩雑で専門性が高いため、行政書士や登録支援機関の活用が一般的です。
受け入れが可能な特定産業分野
特定技能外国人の受け入れが認められているのは、以下の12分野など、人手不足が特に深刻な産業に限られています。(2024年時点の情報に基づく)
- 介護、建設、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業など
企業が満たすべき体制要件:支援体制と遵守事項
受け入れ企業は、雇用した特定技能外国人に対し、義務付けられた「支援」を実施しなければなりません。
- 外国人が日本での生活・業務を円滑に行えるよう、日本語学習の機会提供や生活オリエンテーションの実施が義務付けられています。
- 企業が自ら支援を行う場合は、特定技能の知識を持つ「特定技能担当者」を選任する必要があります。
特定技能外国人を雇用するまでの具体的なステップ
特定技能外国人を雇用する手続きは、以下の3ステップが基本となります。
- ステップ1:雇用契約の締結
- 契約内容は、日本人と同等以上の報酬額・労働時間であることが必須です。
- ステップ2:支援計画の作成
- 外国人の入国・生活をサポートするための計画書を作成します。
- ステップ3:在留資格の申請(変更・認定)
- 海外から呼び寄せる場合は「認定」申請、既に日本にいる場合は「変更」申請を行います。
【重要】登録支援機関の活用と行政書士の役割
受け入れ企業が自ら支援を行うことが難しい場合、「登録支援機関」に支援業務の全てを委託することができます。
登録支援機関に義務付けられている支援内容
- 入国前の生活ガイダンス(事前オリエンテーション)
- 空港への送迎、住居の確保
- 公的機関への手続きの同行、日本語学習の機会提供
- 相談・苦情への対応
行政書士事務所が支援機関として提供できる一貫サポート
当事務所は、特定技能の在留資格申請と登録支援機関としての支援業務をワンストップで提供できます。企業様は複数の窓口に相談する手間が省け、法令遵守を徹底した状態で外国人雇用を進めることができます。
特定技能の申請を失敗させないための注意点
特定技能の制度はまだ新しく、法令遵守が求められる点が多岐にわたります。
- 特定技能1号から2号への移行を見据えた計画: 長期的な人材確保のためには、2号への移行(永住権の道が開かれる)を見据えたキャリアパスを提示することが重要です。
特定技能の受け入れでお困りの企業様へ
特定技能の制度は複雑で、一つでも要件を欠くと不許可や行政指導のリスクがあります。当事務所は、貴社が特定技能外国人をスムーズに受け入れ、長く活躍してもらうための体制構築をサポートします。