本コラムは、在留資格申請を専門とする行政書士事務所の視点から、ベトナムの人材紹介会社(以下「ベトナム紹介会社」)を介して外国人を採用する際の実務上の注意点を、採用前→契約時→在留資格申請→入社後の時系列で整理したものです。社内共有・実務チェックリストとしても使えるよう、要点を簡潔にまとめています。
はじめに:まず確認したい前提
直雇用か派遣か:ベトナム紹介会社を介した採用は、基本的に「職業紹介(紹介予定含む)」=貴社と本人の直接雇用が前提です。派遣を受け入れる場合は日本側の派遣元の許可や受入れ制限の確認が必要です(混同すると違法な労働者供給に当たるおそれ)。
該当する在留資格の見立て:製造業で多いのは、①特定技能(1号/2号)、②技術・人文知識・国際業務(設計・品質管理・生産技術など専門職)、③(制度移行中の)育成就労からの将来移行パスの想定です。求人像と在留資格要件の適合性を最初に確認すると後戻りが減ります。
採用の全体像(ガバナンス):海外人材の調達は、採用(紹介/選考)・在留申請・受入れ支援(生活/労務)の3本柱。費用と責任の所在、情報連携の線引きを社内外で明確化しましょう。
1.採用前(人材紹介会社・求人設計・与信)
1-1. ベトナム紹介会社の適格性確認(デューデリジェンス)
日本側のパートナー:日本国内で求人者(貴社)と直接やり取りする有料職業紹介事業者かを確認(許可番号・事業所名・有効期間)。番号表記(例:有料職業紹介 許可〇〇‐ユ‐1234)の根拠資料(許可通知・サイト表記)を取得。
ベトナム側の許認可:送り出し事業の政府認可(MOLISA等)、手数料体系、過去の行政処分・苦情の有無を文書で確認。日本語/英語の料金表と契約雛形も入手。
取引基本契約:三者(貴社/日本側紹介会社/ベトナム側)で違法な中間搾取・二重派遣の回避、個人情報保護、秘密保持、苦情・事故対応、準拠法/裁判管轄を定める。
1-2. 求人設計(在留資格を意識)
職務内容の具体化:ライン作業のみか、技能・設備操作・品質管理・図面読解などの要件定義。在留資格(特定技能/技人国)に照らして学歴・実務・試験合格などの必須条件を求人票に反映。
就業場所・配置変更:複数工場・客先常駐の有無、出向・応援の扱い(派遣と誤解されない設計)。
日本語要件:配属先の安全衛生・手順書の読解レベルから逆算し、N4/N3/N2等の目安を明示。
1-3. コンプライアンス・費用分担の原則
求職者負担の禁止領域:紹介手数料・違約金・高額な「教育費」や「渡航パッケージ」を求職者に負担させない設計(預り金・デポジット・違約金・パスポート保管はNG)。
費用の見える化:採用広告、選考旅費、在留申請、渡航、入社時住居初期費用、入社後支援(特定技能1号の支援計画費用含む)の負担者を明確化。
2 契約時(雇用契約・労働条件の明確化)
2-1. 雇用契約書の必須ポイント
雇用主は貴社(派遣・請負にしない)。職務、就業場所、労働時間、休憩・休日、賃金(基本給+各手当の内訳)、昇給・賞与の有無、試用期間、退職・解雇、社宅規程等を日英(二か国語)で用意。
均等待遇・最低賃金:地域最賃、時間外割増、深夜・休日割増、社保加入を明記。控除項目(社宅・水光熱等)は実費相当かつ内訳明細化。
安全衛生・教育:危険・有害業務の有無、保護具、安全教育(母語補助含む)の実施を明記。
2-2. 在留資格別の追加留意点
特定技能(1号):受入れ機関として支援計画(生活ガイダンス、日本語学習、相談窓口、同行支援等)の実施体制を整備。分野の試験合格or技能実習2号良好修了の確認資料を取得。
技術・人文知識・国際業務:専門性(学歴・職務との関連性)、相当性のある報酬の立証。現場ライン作業中心は適合しづらいため、職務設計に注意。
(移行制度)育成就労:現行は詳細運用が段階的に公表中。将来の転籍・キャリアパス、特定技能への移行も見据えた人材育成計画を。
3 在留資格申請(書類・スケジュール)
想定タイムライン(目安):求人確定→候補者決定→雇用契約→在留資格認定証明書(COE)申請→交付→在外公館で査証→入国→在留カード交付→入社。繁忙期は2〜3か月以上見込む。
主な立証資料:会社概要、決算書、給与台帳、就業規則、雇用契約書、職務説明書、配置図、支援計画(特定技能1号)、本人の履歴書、学位・訓練修了証、試験合格証、語学証明、身分関係書類 等。
不許可リスクの典型:職務と在留資格の非整合、実態が派遣・請負、賃金水準が同等性に欠ける、提出書類の整合性欠如、虚偽学歴・資格(原本照会・在外確認の体制づくり)。
4 入社後(受入れ体制・定着支援)
4-1. 労務・生活支援
オリエンテーション:就業規則、勤怠、労災時の連絡、ハラスメント窓口、通勤・防災を多言語で。
住居・ライフライン:契約名義、敷金礼金の負担、家電・通信の手配支援。パスポート・在留カードは本人保管。
相談体制:母語/英語の通報・相談窓口を明示。私物の押収、過度な転居強制、違約金・罰金などは設けない。
4-2. 安全衛生・教育
日本語+図解の作業手順、KYT(危険予知)の導入、通訳・ピクトグラム活用。定着後は技能等級×賃金の見える化でモチベーション維持。
4-3. 在留・身分手続の運用
在留期間管理と更新、社会保険・税の年次業務、家族帯同の可否(在留資格による)。転籍や配置変更多発時は在留資格の該当性を随時点検。
5 リスクとレッドフラッグ(こんな取引は避ける)
求職者から高額な「紹介料」「教育費」やデポジットを徴収するスキーム。
内定辞退・退職時に違約金や過大な費用請求を課す条項。
パスポート・在留カードの事務所保管や私的制裁。
雇用主不明瞭(名ばかり請負/実質派遣)や二重派遣。
求人内容と実態の乖離(職務・賃金・勤務地)。
6 よくある質問(FAQ)
Q1. ベトナム紹介会社から候補者を紹介されました。紹介料は本人から天引きしてよい?
A. 不可。紹介料や違約金等の本人負担はトラブル・違法リスクが高く、原則企業負担で設計します。
Q2. 製造ライン配属で「技術・人文知識・国際業務」は可能?
A. 現場ライン中心は不適合リスクが高く、特定技能の検討が現実的です。専門職(設計・品質・生産技術等)なら要件整理の上で申請可能性あり。
Q3. 技能実習からの採用は?
A. 制度は育成就労へ移行中。転籍の柔軟化や日本語要件導入など変更点があるため、最新の運用を確認し、特定技能への移行も視野に入れた設計を。
7 当事務所のサポート
在留資格の適合性診断(求人票レビュー)
紹介スキームの適法性点検(契約・費用負担・レッドフラッグ洗い出し)
在留申請一式(特定技能・技人国 等)
受入れ後の労務・支援体制の整備(特定技能1号の支援計画運用)
相談初回無料。オンライン・英語対応可。具体案件がある場合は、求人票・雇用契約案・紹介会社情報(許可番号・料金表)をご準備ください。
免責
本コラムは一般的な情報提供であり、個別案件に対する法的助言ではありません。制度改正・運用変更により内容が変わることがあります。最新情報は所管官庁の公表資料をご確認ください。