はじめに:なぜ今“偽装技人国”が問題になっているのか
近年、中小企業の間で外国人材を正社員として採用する動きが加速しています。特に、「技術・人文知識・国際業務(いわゆる“技人国”)ビザ」を活用した外国人採用は広く行われています。
しかしその一方で、本来のビザの趣旨に反する「偽装技人国」の問題が増えています。制度を理解せずに採用した結果、企業も外国人も“違法状態”に陥るケースが後を絶ちません。
特に、ベトナムをはじめとする海外の紹介会社経由での採用に関するトラブルが多発しています。
技人国ビザの本来の要件とは?
技人国ビザは、「高度外国人材の就労」を目的とした在留資格であり、下記の条件を満たす必要があります。
- 大学・専門学校などで学んだ内容と、従事する業務との関連性があること
- 適切な報酬が支払われること(日本人と同等以上)
- 通訳、海外営業、設計、プログラミングなど“専門性ある業務”であること
「理系大学を出ているから、工場で働かせても大丈夫」――これは大きな誤解です。
偽装技人国とは何か? ― 形だけ正社員、中身は軽作業
「偽装技人国」とは、在留資格の申請書類上は専門職として申請しながら、実際には単純労働に従事させることを指します。
たとえば以下のようなケースです:
- 「通訳」として在留資格を取得 → 実際は倉庫で検品・梱包
- 「エンジニア」として採用 → 実務内容が設計や開発とは無関係な作業
- 「国際業務」として貿易事務を想定 → 実態は飲食店のホールスタッフ
このような場合、入管から虚偽申請や資格外活動とみなされ、在留資格が取り消されることもあります。企業側も指導・処分の対象となり得ます。
ベトナム人材に関する典型的なトラブル例
例1:通訳職のはずが、実態は倉庫内の軽作業
ベトナムに本拠を置く人材紹介会社を通じて、「通訳」としてベトナム人を採用。
しかし日本語能力が足りず、通訳業務ができないため、実際には商品の仕分けや梱包作業に従事。
結果、入管の調査で業務実態との乖離が指摘され、在留資格の更新が不許可に。
例2:理系大学卒の“エンジニア”が事務補助要員に
工学系大学を卒業したベトナム人を「CADオペレーター」として採用。
しかし実際は、製品の書類整理や在庫チェックなど補助的な業務が中心で、専門性が確認できず。
更新時に専門性の欠如を指摘され、許可されず帰国に至る。
なぜこうした事態が起きるのか?
原因は複合的ですが、以下のような背景があります。
- 海外紹介会社が“書類上だけ整えた人材”を供給している
- 日本の企業側も、「専門職=技人国ビザが出るだろう」と安易に考えてしまう
- 悪質な紹介会社は、報酬目的で法的要件を無視したマッチングを行う
- “送り出し機関”が企業と直接契約する形で、日本の許可制をすり抜けている
日本の法律では違法では? ― 無許可の職業紹介は処罰対象
有料職業紹介は【許可制】です
日本では、「職業安定法」に基づき、有料で職業紹介を行うには厚生労働省の許可(有料職業紹介事業許可)が必要です。
許可なしで人材を有料で紹介することは、違法行為とされ、下記の罰則があります。
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(職業安定法第63条)
海外紹介会社も“対象になる”可能性がある
たとえ紹介会社がベトナム現地に拠点を置いていても、
- 日本市場に繰り返し営業している
- 日本企業との間に報酬の授受がある
といった場合には、日本法の適用対象となる可能性が高く、行政指導や法的リスクを負うことになります。
違法紹介に巻き込まれた場合の企業リスクとは?
企業側が「知らなかった」では済まないリスクもあります。
- 在留資格の更新が不許可 → 即戦力を失う
- 入管による立入調査 → 他の外国人雇用にも影響
- 最悪の場合、「ビザ申請が通りにくくなる企業」としてブラックリスト化されることも
企業がとるべき対策とチェックポイント
採用前に確認すべきこと
- 学歴・職歴と職務内容の関連性を自社で把握
- 業務内容が本当に「技人国ビザ」に適しているか確認
- 採用書類や契約内容を、外国人本人とも共有しておく
紹介会社のチェック
- 日本国内で職業紹介の許可を持っているか?
- 契約書に「有料職業紹介の適法性に関する条項」があるか
- 違法紹介のリスクについて説明してくれるか
専門家への相談を検討
行政書士などの専門家に相談しながら進めることで、採用の合法性を事前にチェックできます。
まとめ:外国人採用こそ、慎重に、合法的に
外国人採用は、企業にとって大きな戦力強化となります。しかし、その裏側には法制度という“落とし穴”も存在します。
- 制度の理解不足が違法行為に繋がることも
- 海外紹介会社との取引は、特に慎重に見極めが必要
- 採用の“合法性”は、経営リスク管理の重要な一環です
📩 外国人採用に不安のある方へ
当事務所では、外国人雇用に関する下記のサポートを行っています。
- 技人国ビザ申請・更新の適格性チェック
- 雇用契約書・職務内容の法的整合性確認
- 海外紹介会社との契約内容のアドバイス