育成就労制度で変わる外国人雇用:企業と外国人を支える行政書士の役割

音声解説
2027年4月1日に施行予定の育成就労制度は、外国人材の受け入れを「国際貢献」から「人手不足分野における人材の育成・確保」へと明確に転換させる、日本にとって大きな制度改革です 。
この新制度の導入に伴い、企業(育成就労実施者)や、外国人材をサポートする機関には新たな手続きや義務が課せられます。ここでは、その複雑な制度のナビゲーターとして、行政書士が果たす重要な役割を解説します。
1. 制度の目的と基本構造の理解
育成就労制度は、外国人が日本で3年間就労し、その間に特定技能1号水準の技能を習得することを目的としています 。
- 目的: 育成就労産業分野(特定技能制度の受入れ分野のうち、就労を通じて技能を修得させることが相当なもの)において、人材の育成・確保を図ります 。
- 流れ: 外国人は「育成就労(3年間)」を経て、技能と日本語能力の要件を満たすことで、より長期の「特定技能1号(5年間)」へ移行することが可能です 。
- 日本語能力: 就労開始までに日本語能力A1相当以上の試験合格(JLPTのN5等)またはそれに相当する日本語講習の受講が必要です 。
2. 企業の義務:複雑化する「計画認定」と「監理」手続き
新制度で外国人を受け入れる企業(育成就労実施者)が直面する最も大きな課題は、以下の2つの新しい手続きへの対応です。行政書士は、これらの煩雑な申請業務を一手に引き受けます。
① 育成就労計画の認定申請代行
企業は、外国人ごとに「育成就労計画」を作成し、外国人育成就労機構の認定を受けなければなりません 。
- 業務: 計画書には、3年間の期間、育成目標(業務、技能、日本語能力等)、内容などを具体的に記載する必要があり、認定を受けるための専門知識が不可欠です 。
- 行政書士の役割: 企業が定める育成目標と、制度の認定基準が合致しているかを確認し、計画書の作成・機構への申請手続きを代行します 。
② 監理支援機関の許可申請代行
従来の「監理団体」に代わる「監理支援機関」は、育成就労が適正に実施されているか監査を行う役割を担います 。
- 業務: 監理支援機関は許可制となり、許可基準が厳格化されます 。この許可を得るための手続きや、組織体制の整備に関するコンサルティングは行政書士の重要な業務です。
3. 外国人の転籍を支える在留資格・条件整備
育成就労制度では、一定の要件を満たせば、外国人本人の意向による転籍(転職)が認められることになりました 。これは、外国人労働者としての権利保護を図るための重要な変更点です。
🔑 転籍のための要件(行政書士のサポート領域)
転籍が認められるためには、外国人が以下の水準をクリアする必要があります 。
- 技能水準: 技能検定基礎級等または特定技能1号評価試験に合格すること 。
- 日本語能力: 日本語能力A2相当以上の試験に合格すること(JLPTのN4等) 。
- 業務: 行政書士は、転籍後の在留資格手続きのサポートに加え、外国人本人が転籍に必要な日本語能力(A2相当)や技能を達成できるよう、受入れ機関の教育体制構築に関する助言を行うことができます。
4. 施行スケジュール:今から準備が鍵となる
育成就労制度は令和6年6月21日に法律が公布され、その日から3年以内の政令で定める日(令和9年(2027年)予定)に施行されます 。
注目すべきは、令和8年(2026年)には、監理支援機関の許可などに関する事前申請が開始される予定であることです 。
企業や監理支援機関の設立を目指す団体にとって、新制度に対応した許可や認定をスムーズに取得するためには、法施行前から行政書士の専門的なサポートが不可欠です。
行政書士は、この新しい外国人材育成・確保の仕組みにおいて、法令遵守(コンプライアンス)と円滑な在留手続きを実現するための専門家として、今後ますます重要な役割を担うことになります。
行政書士法改正:無資格者対策の明確化と罰則強化(第19条関係)
2026年(令和8年)1月1日に施行される行政書士法改正のうち、無資格者(非行政書士)による行政書士業務の制限規定に関する変更は、行政書士業界と国民の保護にとって極めて重要なポイントです。
1. 業務の制限規定の明確化
報酬の定義の明確化今回の改正では、行政書士でない者が行政書士の独占業務(官公署に提出する書類などの作成)を業として行うことを禁じる規定(第19条)が、以下の通りより明確化されました。改正前改正後(新法第19条第1項)行政書士でない者は、報酬を得て、第1条の2に規定する業務を行うことができない。行政書士でない者は、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、第1条の2に規定する業務を行うことができない。
🔑 影響とポイント「いかなる名目によるかを問わず」の追加
これまで、無資格者が「コンサルティング料」「会費」「指導料」などの名目で実質的な書類作成の対価を受け取り、違法行為を回避しようとするケースが見受けられました。今回の改正により、対価の受け取りが「報酬」という形式でなくても、実質的に行政書士業務の対価である限りは、違法な非行政書士行為であることを明確にしました。
この規定により、悪質な無資格業者の法的取り締まりがより容易かつ確実になり、国民が専門性のない者や詐欺的な行為から不当な不利益を被ることを防止します。
2.罰則と両罰規定の強化
業務の制限規定の明確化に伴い、無資格者による違法行為に対する罰則も強化されました。罰則の強化: 従来の「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」から、「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に引き上げられました(新法第20条)。両罰規定の整備: 法人が違法行為を行った場合、行為者(従業員など)だけでなく、その法人自身にも罰金刑が科される両罰規定が整備されました(新法第22条)。
🔑 影響とポイント抑止力の向上
罰則が大幅に強化されたことで、無資格で業務を行うことのリスクと抑止力が飛躍的に高まります。
組織的・悪質な業者への対応
両罰規定の整備により、組織的に無資格行為を反復して行う悪質な法人や団体に対する取り締まりが強化され、国民の信頼性の確保につながります。
🛑 登録支援機関による在留資格申請書類作成の原則禁止と法改正の影響
登録支援機関が特定技能の在留資格申請が行えなくなります。
◎登録支援機関の本来の業務範囲
特定技能制度において、登録支援機関の本来の役割は、特定技能所属機関(受入れ企業)に委託された「特定技能外国人への支援計画の実施」です。これには、入国前のオリエンテーション、住居確保の支援、日本語学習の機会提供、生活相談などが含まれます。
一方で、「在留資格申請書類の作成」は、行政書士法第19条により、行政書士または弁護士の独占業務と定められています。登録支援機関の業務には含まれていません。
