日本語学校留学生の家族帯同をめぐる課題

1. はじめに:留学生の増加と「家族」という視点
近年、日本の日本語学校で学ぶ外国人留学生は増加の一途をたどっています。若者から社会人まで、多様なバックグラウンドを持つ人々が日本の大学や専門学校への進学、または就職を目指し、第一歩として日本語の習得に励んでいます。
しかし、この大きな挑戦の裏側で、家族を持つ留学生にとっては「家族と離れて暮らす」という、見過ごせない大きな障壁が存在します。
本コラムでは、日本の「留学」の在留資格における家族帯同(家族滞在ビザ)の原則と、特に日本語学校の留学生に対する厳しい制限の現実を解説し、その背景にある課題を考察します。
2. 「留学」の在留資格と家族滞在ビザの原則
日本に留学する外国人の配偶者や子どもが、扶養を受ける目的で一緒に日本に滞在するためには、原則として「家族滞在」の在留資格が必要です。
- 対象者: 留学生(扶養者)の配偶者と子のみが対象となります。(両親や兄弟姉妹は対象外です。)
- 最大の審査ポイント: 扶養者である留学生が、家族を養うのに十分な経済力があるかが厳しく審査されます。留学生は原則として就労が週28時間に制限されるため、本国からの十分な送金や預貯金が求められます。
- その他の審査ポイント: 留学生本人の在籍状況(出席率、成績)や、資格外活動(アルバイト)の順守状況も、適正な留学活動を行っているかの判断材料となります。
重要な点として、「家族滞在」ビザは、あくまでも留学生が主目的である学業を妨げずに家族を扶養できる場合に限って認められるものです。
3. 日本語学校の留学生はなぜ家族を呼べないのか?
「留学」の在留資格を持つ者でも、在籍する教育機関によっては「家族滞在」の申請が原則として認められていません。
決定的な制限の明記
家族滞在が認められる教育機関は、日本の法律(告示)上、大学、大学院、専門学校(専門課程)、その他法務大臣が認める学校に限定されています。
残念ながら、日本語学校(一部の例外を除く)はこのリストに原則として含まれていません。
制限の背景にある国の考え方
なぜ日本語学校の留学生には制限が課せられるのでしょうか。そこには、日本の出入国在留管理庁の以下の考え方があります。
- 「準備期間」という位置づけ: 日本語学校での滞在は、大学や専門学校などへの「日本の高等教育機関に進学するための準備期間」と見なされます。主要な活動は学業であり、家族を帯同して生活を維持・管理することは、本来の目的遂行を妨げると判断されやすい傾向があります。
- 不法就労の抑制: 日本語学校の留学生は、大学や大学院の留学生に比べて経済力が弱いと見なされやすい現実があります。家族を帯同させることで、生活費を稼ぐために留学生本人や家族が資格外活動の制限(週28時間)を超えた不法就労に走るリスクを懸念しているため、厳格な運用がなされています。
このため、いかに本国に十分な預貯金があったとしても、日本語学校在学中は「家族滞在」ビザでの帯同は原則困難となります。
4. 家族と離れて暮らす留学生の現実と課題
家族帯同が認められないという制度は、留学生の生活に大きな影響を与えます。
- 精神的・経済的な負担: 幼い子どもや配偶者と長期間離れて暮らすことは、精神的な孤独感やストレスの原因となります。
- 学業への影響: 家族からのサポートがない状況で、慣れない異国での学業に専念することは容易ではありません。特に子育てを担う留学生にとっては、留学生活の難易度が著しく上がります。
- 一時的な対応策の限界: 家族に会う唯一の手段は、観光などを目的とした「短期滞在ビザ」に限られます。しかし、短期滞在は最長90日で就労も不可であり、長期的な家族の絆を維持するには不十分です。
5. まとめと提言:制度への問いかけ
日本語学校の留学生に対する家族帯同の制限は、制度の厳格さを示す一方で、「勉学」と「家族」を天秤にかけることを強いる現実を生み出しています。
