在留資格「経営・管理」の運用明確化に関するガイドライン

1. 在留資格「経営・管理」の基本要件
在留資格「経営・管理」は、外国人が日本で事業を興す、または既存事業の経営・管理に従事する場合に該当する。この資格が認められるためには、以下の基本要件を満たす必要がある。
• 経営への実質的参画: 事業の運営に関する重要事項の決定、事業の執行、または監査の業務に実質的に参画していること。単に役員に就任しているだけでは不十分である。
• 上陸基準省令の遵守: 出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準省令に定められた以下の要件を満たすこと。
◦ 事業所の確保または存在
◦ 事業規模等の要件
• 事業の継続性: 在留期間の更新申請等においては、事業の経営・管理という在留活動を継続して行えるかどうかが審査される。
• 法令遵守: 事業者としての各種公的義務(納税、社会保険等)を適切に履行していること。
2. 事業所の確保に関する基準
事業所の確保は、上陸基準省令における重要な要件の一つである。その判断基準は以下の通り。
事業所の定義と要件
総務省が定める日本標準産業分類に基づき、事業所は以下の二点を満たす必要がある。
1. 経済活動が単一の経営主体のもと、一定の場所(一区画)を占めて行われていること。
2. 人及び設備を有し、財貨・サービスの生産または提供が継続的に行われていること。
認められない事業形態
事業の継続性が求められるため、以下の形態は原則として事業所の確保要件に適合しない。
• 月単位の短期間賃貸スペース
• 容易に処分可能な屋台
賃貸物件における留意事項
事業所が賃貸物件である場合、以下の点が明確にされている必要がある。
• 使用目的: 賃貸借契約書において、使用目的が「事業用」「店舗」「事務所」等、事業目的であることが明記されていること。
• 契約者名義: 賃貸借契約者が法人等の名義であり、当該法人による使用であることが明確であること。
インキュベーション施設利用の特例
インキュベーター(経営支援を行う団体・組織)が支援する場合、以下の施設は「事業所の確保」要件を満たすものとして扱われる。
• (独)日本貿易振興機構(JETRO)対日投資ビジネスサポートセンター(IBSC)
• その他、起業支援を目的に一時的に貸与されるインキュベーションオフィス等
• この場合、申請者は当該事業所に係る使用承諾書等の提出が必要となる。
3. 複数外国人による共同経営の審査
複数の外国人が共同で事業を経営する場合、それぞれの外国人について在留資格の該当性が個別に審査される。
審査の基本原則
• 複数の外国人が役員に就任する場合でも、各人が事業の経営または管理に実質的に参画していることが必要である。
• 従事する具体的な活動内容から、在留資格該当性および上陸基準適合性が審査される。
合理性の要件
事業の経営または管理を複数の外国人が行うことについて、合理的な理由が認められる必要がある。合理性は、以下の要素を勘案して判断される。
• 事業の規模
• 業務量
• 売上等の状況
該当性の判断基準
以下の条件がすべて満たされている場合、それぞれの外国人全員について「経営・管理」の在留資格に該当するとの判断が可能となる。
1. 合理的な理由: 事業規模や業務量を勘案し、各外国人が経営・管理を行うことに合理的な理由が認められること。
2. 業務内容の明確化: 経営・管理に係る業務について、各外国人ごとに担当する業務内容が明確になっていること。
3. 報酬の支払い: 各外国人が経営・管理業務の対価として、相応の報酬の支払いを受けることになっていること。
4. 事業の継続性に関する判断基準
事業の継続性は、単年度の決算状況だけでなく、貸借状況等を含め、直近二期の決算状況により総合的に判断される。
(1)直近期または直近期前期に売上総利益がある場合
| 財務状況 | 判断 | 備考 |
| a. 直近期末において欠損金がない<br>(剰余金がある、または剰余金も欠損金もない) | 事業の継続性に問題なしと判断される。 | 直近期に当期純損失が出ても、剰余金が減少し欠損金が生じない範囲であれば継続性は認められる。 |
| b. 直近期末において欠損金がある | ||
| (ア) 債務超過ではない | 原則として事業の継続性ありと認められる。 | 今後1年間の事業計画書および予想収益を示した資料の提出が求められる。内容によっては、中小企業診断士等、第三者の評価書面の追加提出が求められる場合がある。 |
| (イ) 直近期末は債務超過だが、前期末は債務超過ではない | 1年以内の具体的な改善見通しを前提として事業の継続性を認める。 | 中小企業診断士や公認会計士等の第三者が、改善見通し(1年以内の債務超過解消)について評価した書面の提出が求められる。 |
| (ウ) 直近期末および前期末ともに債務超過 | 原則として事業の継続性があるとは認められない。 | 【新興企業への特例あり】 下記「新興企業への特例措置」を参照。 |
(2)直近期および直近期前期において共に売上総利益がない場合
二期連続して売上総利益がない場合、主たる業務を継続的に行える能力を有しているとは認め難いため、原則として事業の継続性があるとは認められない。
新興企業への特例措置
設立5年以内の国内非上場企業(新興企業)については、設立当初の赤字が想定されるため、事業の継続性について柔軟な判断が行われる。以下のケースにおいて、提出書類の内容を踏まえ合理的な理由があると判断されれば、継続性が認められる場合がある。
• 対象ケース:
◦ 直近期・前期末ともに債務超過である場合
◦ 直近期・前期末ともに売上総利益がない場合
• 提出を求められる書類:
1. 第三者の評価書面: 中小企業診断士や公認会計士等が、改善の見通し(1年以内の債務超過解消または売上総利益の確保)について評価を行った書面。
2. 資金調達の証明書類: 投資家、VC、銀行等からの投融資や、公的支援による補助金・助成金等による資金調達への取り組みを示す書類。
3. 事業開発の証明書類: 製品・サービスの開発や顧客基盤の拡大等に取り組んでいることを示す書類。
主な用語の定義
| 用語 | 説明 |
| 直近期 | 直近の決算が確定している期 |
| 直近期前期 | 直近期の一期前の期 |
| 売上総利益 | 純売上高から売上原価を控除した金額 |
| 剰余金 | 法定準備金を含むすべての資本剰余金及び利益剰余金 |
| 欠損金 | 期末未処理損失、繰越損失 |
| 債務超過 | 負債の合計が資産の合計を上回った状態 |
5. 事業者としての公的義務の履行
「経営・管理」の在留資格を持つ外国人は、事業を適正に運営し、各種公的義務に関する法令を遵守する必要がある。これらの義務の不履行は、審査において消極的な要素として評価される。
(1)租税関係法令の遵守
• 義務: 国税(所得税、法人税等)および地方税(住民税、事業税等)を適切に納付すること。
• 消極的評価: 納税義務の不履行による処罰、高額または長期間の未納。特に消費税の不正受還付等による重加算税賦課決定は、悪質性が高いと見なされる。
(2)労働・社会保険関係法令の遵守
• 義務:
◦ 雇用する従業員の労働条件が労働関係法令に適合していること。
◦ 労働保険の適用事業所である場合、適正な加入手続きと保険料納付。
◦ 健康保険・厚生年金保険の適用事業所である場合、適正な加入手続き、従業員の資格取得手続き、保険料納付。
• 消極的評価: これらの法令に適合していないと認められる場合。
6. 新株予約権による資金調達の評価
新興企業等が用いる有償新株予約権の発行により調達した資金は、一定の要件を満たすことで、上陸基準省令の事業規模要件(3,000万円以上)に算入することが可能である。
算入の要件
以下の両方を満たす部分の金額が算入対象となる。
1. 新株予約権の発行によって払い込まれた、返済義務のない払込金であること。
2. 当該払込金が、将来、権利行使されて払込資本となる場合、および権利行使されず失効して利益となる場合のいずれにおいても、資本金として計上することとしていること。
提出資料
算入を申請する際には、以下の書類等が必要となる。
1. 投資契約書: J-KISS型新株予約権契約書など。
2. 払込証明資料: 実際に払い込まれた額を証明する通帳の写しや取引明細書。
3. 誓約書等: 払い込まれた額のうち、事業規模要件として計上する額について、将来権利行使された際に資本金として計上することの誓約書。
