【事業者向け実務ガイド】特定技能(建設分野)の導入:手続き、JAC、そして京町家関連業務への適用

音声解説
建設業界の深刻な人手不足は、事業継続における喫緊の課題です。特定技能(建設分野)は、この課題を克服し、現場に即戦力と活力を供給するための重要な解決策です。本コラムでは、受け入れを検討されている事業者様が、制度の根幹から具体的な手続きまでを理解できるよう解説します。
1. 特定技能の基本と建設分野の適用範囲
特定技能制度は、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を「即戦力」として迎え入れるための在留資格です。
🔹 区分とキャリアパス
特定技能には、最長5年の1号と、在留期間の上限がなく家族帯同も可能な2号があり、優秀な人材の長期定着とキャリアアップの道筋を提供します。
🔹 適用業務と「建築区分」の重要性
特定技能外国人が従事できる業務は、「土木」「ライフライン・設備」、そして「建築」の3つの区分に再編されています。
- 建築区分: 一般的な住宅やビルの新築・改修に加え、京町家や古民家等の伝統的な木造建築物の新築、修繕、模様替え作業も明確に適用範囲に含まれています。これにより、伝統技術の継承を担う人材の確保が可能となります。
2. 建設分野独自の義務的要件とJACへの加入
特定技能(建設分野)の受け入れ事業者は、外国人材の適正な雇用と育成を確実にするため、他の分野にはない独自の義務的要件を順守しなければなりません。
🏠 JAC(一般社団法人 建設技能人材機構)への加入
特定技能外国人を受け入れる事業者は、JACへの加入が義務付けられています。
| 要件 | 内容 | 実務上の注意点 |
| 加入義務 | 特定技能外国人を受け入れるすべての事業者。 | 在留資格の申請前に加入手続きを完了させる必要があります。 |
| 費用の負担 | 建設業界の適正な維持・発展のための協力金(年間負担金)を支払います。 | 協力金の額は、雇用する特定技能外国人の人数などによって決定されます。 |
| 役割 | 外国人材の技能向上支援、適正な雇用管理のための指導・監査、CCUS(建設キャリアアップシステム)の普及・推進などを行います。 |
📜 国土交通大臣の認定とCCUS
JACへの加入に加えて、「建設特定技能受入計画」を作成し、国土交通大臣の認定を受けることが必須です。また、すべての受け入れ企業は、外国人材を含む技能者のCCUS(建設キャリアアップシステム)登録・活用が義務化されています。これは、外国人材の就業履歴と技能を客観的に評価し、適正な処遇に結びつけるための基盤となります。
3. 特定技能外国人受け入れの具体的なステップ
適正かつ円滑に特定技能外国人を受け入れるための手続きは、以下の流れで進めます。
| ステップ | 手続きの概要 | 担当機関 |
| Step 1: JACへの加入 | 必要書類を提出し、JACの理事会等による審査・承認を受け、加入手続きを完了させます。 | JAC(建設技能人材機構) |
| Step 2: 受入計画の認定 | 「建設特定技能受入計画」を作成し、国土交通大臣に認定申請を行います。CCUSの活用計画なども盛り込みます。 | 国土交通省 |
| Step 3: 採用活動 | 特定技能評価試験合格者または技能実習2号修了者を探し、雇用契約を締結します。 | 現地送り出し機関、国内の職業紹介事業者など |
| Step 4: 在留資格の申請 | 国土交通大臣の認定を受けた後、地方出入国在留管理局に在留資格の申請を行います。 | 地方出入国在留管理局 |
| Step 5: 支援の実施 | 外国人材の入国後、生活オリエンテーション、公的機関への手続き同行、相談・苦情対応などの義務的支援を実施します。自社で困難な場合は、登録支援機関に委託できます。 | 受け入れ企業または登録支援機関 |
特定技能「建設分野」技能評価試験の詳細
1. 試験の概要と目的
- 目的: 日本の建設業で即戦力として活躍できる技能(安全管理、基本作業、図面読み取り等)を確認。プロジェクトのように伝統建築(京町家改修)を扱う場合、建築区分(木工、左官等)の試験を選択。
- 対象者: 技能実習未経験者(または区分違いの経験者)。技能実習2号修了者は免除可能。
- 区分: 建設業の業務内容に合わせ18区分(例: 建築大工、左官、屋根瓦等)。京町家関連なら「建築大工」または「左官」が適する。
- 合格基準: 学科60%以上、実技70%以上。合格有効期限なし。
- 受験資格: 年齢制限なし。日本語能力は別途「日本語能力試験N4以上」または「国際交流基金日本語基礎テスト」合格が必要(全分野共通)。
※海外での技能評価試験は、現在、インドネシア、フィリピン、バングラデシュ、カンボジア、インド、モンゴル、スリランカ、タイ、ウズベキスタン、ミャンマー、ネパール、ベトナムで実施されています。
例えば、アメリカやカナダの方は、「短期滞在ビザ」で日本に入国し、受験することが可能となっています。
2. 試験内容
試験は学科と実技の2部構成で、所要時間は約4〜5時間。テキストはJAC公式サイトから無料ダウンロード可能(7冊分: 学科4冊、実技3冊)。
- 学科試験(筆記・CBT形式、100問程度、多肢選択式):
- 内容: 建設業の基礎知識(安全衛生、施工法、材料、図面、品質管理)。京町家改修に特化した伝統技術(例: 木組み、漆喰塗り)は基本レベルでカバー。
- 配点: 全体の40〜50%。サンプル問題はJACサイトで公開。
- 実技試験(実作業形式、指定道具使用):
- 内容: 区分に応じたハンズオン作業(例: 建築大工なら木材加工・接合、左官なら壁塗り仕上げ)。時間制限内で精度・安全性を評価。
- 配点: 全体の50〜60%。道具持参不要(会場提供)。
試験範囲の詳細は「建設分野特定技能1号評価試験実施要領」(PDF、国土交通省公開)で確認を推奨。プロジェクト参加者はOJT前に模擬試験を実施し、弱点を補強。
3. 試験日程と申込方法(2025年11月時点)
- 実施頻度: 年間複数回(国内: 東京・大阪・福岡等、海外: ベトナム・インドネシア等)。随時更新のため、最新はJACサイト参照。
- 直近例(2025年):
- 11月: 東京会場(11/15、11/22)、大阪(11/20)等。海外(北米圏)は年2〜3回(例: 11/10カナダ)。
- 詳細スケジュール: 出入国在留管理庁「在留資格『特定技能1号』に係る試験実施予定一覧表」(Excel、2025年9月30日現在)で全国・海外一覧を確認。
- 申込: JAC公式サイト(https://jac-skill.or.jp/exam.html)からオンライン。締切は試験1ヶ月前。
- 必要書類: パスポート写し、写真、申込料支払い証明。
- 会場: プロメトリックテストセンター(CBT部分)またはJAC指定施設(実技)。
4. 受験料と準備方法
- 受験料: 国内10,800円(税込)、海外は国により変動(例: 北米15,000円程度)。
- 準備方法:
- 公式テキスト活用: 学科1〜4(基礎知識)、実技5〜7(作業マニュアル)。
- 研修: プロジェクトのOJTやJACセミナー(無料/有料)で実践練習。初心者向けeラーニングあり。
- 合格率: 約60〜70%(事前対策で向上)。
JAC(一般社団法人 建設技能人材機構)への加入方法
建設分野で特定技能外国人を受け入れる企業は、JACに直接的または間接的に加入することが義務付けられています。
加入方法
加入方法は主に2通りあります:
- JACの正会員である建設業者団体を通じて間接的に加入する
- すでにいずれかの正会員団体(例:建設業協会など)に所属している場合、その団体を通じてJACの事業に参加することになります。
- 正会員団体ごとに、年会費や入会条件(会員の推薦が必要など)が異なる場合がありますので、詳細は各団体にご確認ください。
- JACに直接、賛助会員として加入する
- 正会員団体に所属していない場合や、直接加入を希望する場合は、JACの賛助会員として加入します。
- JACのウェブサイトから入会申し込みが可能です。
加入費用(直接加入の場合)
JACに賛助会員として直接加入する場合の費用は以下の通りです:
- 年会費: 24万円
- 入会費: 年会費の1年分相当額(24万円)が必要な場合があります(要確認)。
入国後の登録支援機関による支援体制
1. 登録支援機関(とろくしえんきかん)とは?
- 定義と役割:
- 特定技能所属機関(受入れ企業)から委託を受け、特定技能外国人に対する支援計画の全てまたは一部を実施する機関。
- 受入れ企業が支援を全て実施できない場合は、必ず登録支援機関に支援を委託しなければならない。
- 登録要件の概要:
- 支援を適正に行うための体制(人員、適切な支援実施方法など)が整備されていること。
2. 建設分野における「義務的支援」の具体的な内容
特定技能外国人に対し、登録支援機関が実施またはサポートする、法務省令で定められた10項目の義務的支援を解説します。特に建設分野で重要となる点を強調します。
| 項目 | 支援内容のポイント | 建設分野での留意点 |
| ① 事前ガイダンス | 労働条件、活動内容、入国手続き、保証金徴収の有無などを、入国前に理解させる。 | 安全衛生に関する事項も事前に伝達。 |
| ② 出入国時の送迎 | 入国時・帰国時に空港等への送迎を行う。 | 慣れない環境での移動負担を軽減。 |
| ③ 住居確保・生活に必要な契約の支援 | アパート等の契約保証人になる、銀行口座・携帯電話・ライフラインの契約手続きをサポート。 | 宿舎の手配や、生活インフラの早期確立を支援。 |
| ④ 生活オリエンテーション | 日本の法令、交通ルール、生活マナー、公共機関の利用方法、相談窓口などに関する情報を提供。 | ゴミの分別、騒音規制など、集団生活や近隣との関係で重要となる点を徹底。 |
| ⑤ 公的機関等への手続きへの同行 | 必要な届出や手続き(住民登録など)への同行・書類作成を支援。 | |
| ⑥ 日本語学習の機会の提供 | 日本語教室やオンライン教材の情報提供・入学手続きを支援。 | 現場でのコミュニケーション能力向上が重要。 |
| ⑦ 相談・苦情への対応 | 職業生活、日常生活、社会生活に関する相談・苦情に、母国語で対応。 | 専門家との連携(弁護士、労務士など)体制の構築。 |
| ⑧ 日本人との交流促進の支援 | 日本の地域住民との交流の場や、自治体イベントなどの情報提供・参加のサポート。 | 職場外での孤立を防ぎ、定着を促す。 |
| ⑨ 転職支援(受入れ側責の場合) | 受入れ企業側の都合で特定技能雇用契約を解除する場合の、次の仕事探しを支援。 | 責めに帰すべき事由が発生した場合の迅速な対応体制。 |
| ⑩ 定期的な面談と行政機関への通報 | 3か月に1回以上、外国人およびその上司と面談し、労働状況などを確認。問題があれば行政機関へ通報。 | 建設現場での安全管理・労働環境を特に注視。 |
3. 建設分野における登録支援機関の強み
- 専門知識の活用: 建設業特有の法令(安全衛生法など)や慣習を理解した上での支援が可能。
- 人材の定着支援: 建設現場の特性(早朝出勤、体力仕事など)を考慮した生活面・精神面でのフォロー。
- 行政手続きの代行: 建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録サポートなど、建設特有の行政手続き支援。
結論:制度の理解が成功への鍵
特定技能(建設分野)は、単なる一時的な労働力補充ではなく、外国人材を長期的な「人財」として育成し、日本の建設業界の持続性を高めるための戦略的な制度です。事業者様は、JACへの加入や大臣認定といった独自要件を確実に順守し、適切な手続きを踏むことで、京町家のような特殊な技術分野を含む現場に、即戦力と新たな活力を迎え入れることができるでしょう。
