「育成就労制度」は、あなたの会社と地域の未来をどう変えるか?〜技能実習廃止で始まる“人材争奪戦”と転籍の自由〜

「育成就労制度」は、あなたの会社と地域の未来をどう変えるか?〜技能実習廃止で始まる“人材争奪戦”と転籍の自由〜

解説

長年続いた技能実習制度が廃止され、2027年までに新しい在留資格「育成就労制度」への移行が予定されています。

これは単なる制度名の変更ではありません。「国際貢献」から「人材の育成と確保」へと、制度の目的が根本から転換することを意味します。特に企業にとって、優秀な外国人材を「いかに定着させるか」が死活問題となる大きな変化が待ち受けています。


1. 目的の転換:「労働者」としての権利強化が最優先に

旧制度(技能実習)が、発展途上国への技術移転を建前としていたのに対し、新制度(育成就労)は、日本の人手不足分野における人材育成と確保を明確な目的に掲げています。

この目的転換の背景には、旧制度で問題視されていた劣悪な労働環境や、事実上の転職制限による人権侵害の是正があります。新しい育成就労制度の最大の特徴は、外国人を「労働者」として適切に保護し、日本で長期的なキャリアを築きやすくする仕組みです。

制度目的在留期間
技能実習(廃止へ)技能移転による国際貢献3〜5年(帰国が原則)
育成就労(新設)人材育成と特定分野の人材確保3年(特定技能への移行が前提)

2. 最大の変化:「転籍の自由化」が引き起こす人材の流動化

企業にとって最も大きな影響を与えるのが、「転籍(転職)の自由度向上」です。

旧制度では原則禁止だった転籍が、育成就労制度では一定の要件(例:同一企業で1〜2年以上の就労、日本語能力の要件クリアなど)を満たせば、本人の意思で可能になります。

企業の「人材流出リスク」と地方の懸念

この転籍の自由化は、労働者の権利保護という点では大きな前進ですが、企業側には「育成した人材が流出するリスク」を生じさせます。

特に、給与水準や生活環境が整っている都市部への人材集中が懸念されており、地方企業はこれまで以上に、給与・待遇の改善働きやすい職場環境を整備し、人材を「選ばれる」努力が不可欠になります。


3. 「特定技能」へのスムーズなキャリアパスが実現

育成就労制度は、その後の在留資格である特定技能1号への移行を前提としたキャリアパスとして設計されています。

  • 3年間で特定技能1号レベルを育成: 育成就労の3年間で、特定技能1号と同等のスキルと日本語能力(入国時N5相当、修了時N4〜N3相当など)を身につけられるよう、育成計画の作成が義務付けられます。
  • 長期定着の道筋: 育成就労を修了すれば、特定技能1号への移行がスムーズになり、さらに特定技能2号(在留期間の上限なし、家族帯同可能)へ進むことで、日本での永続的なキャリアが可能になります。

企業は、この制度を単なる「3年間の労働力」としてではなく、「長期にわたり自社を支える幹部候補」として育成し、キャリアアップを支援する体制を整える必要があります。

4. 企業が今すぐ取り組むべきこと

育成就労制度の施行は、外国人材の採用・育成・定着のあり方を根本的に見直す時期が来たことを示しています。

  1. 待遇の透明化と改善: 転籍を防ぐため、日本人と同等以上の賃金水準と、明確で魅力的なキャリアアップの道筋を示すこと。
  2. 育成計画の策定: 外国人材を特定技能へ移行させるため、3年間の日本語教育技能習得を含む育成計画を具体的に準備すること。
  3. 選ばれる職場づくり: 転籍の自由化は、外国人材に「企業を選ぶ権利」を与えるものです。ハラスメントのない適切な労働環境、充実した福利厚生、そして地域での生活支援を徹底し、「働きたい」と思える職場をつくることが、何よりも重要になります。

育成就労制度は、外国人材が真に活躍し、日本が国際的な人材獲得競争で勝ち残るための、大きな一歩です。この変化を脅威ではなくチャンスと捉え、新たな人材戦略を構築することが、今後の企業成長の鍵を握るでしょう。

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